脳動静脈奇形

脳動静脈奇形(AVM)では、脳内の動脈と静脈が異常に絡み合った血管の塊(ナイダスとよばれます)により、
通常、動脈から毛細血管を介して静脈へと流れる血液が、AVMでは毛細血管を通らず、直接静脈に流れ込みます。


(通常図)

通常、動脈の血管は心臓から拍出される高い圧を受け止める為壁が厚くなります。
一方、静脈の血流は毛細血管を介することで圧が低くなる為、静脈の血管の壁は薄いです。


(AVM図)

しかし、AVMでは毛細血管ではなくナイダスを介することで、
高い圧の動脈血流が直接静脈に流れ込み、静脈は赤く変色して拡張します。
元々静脈は壁が薄い為、高い圧の動脈血流が流れ込むことで破裂して出血しやすい状態となります。

先天性の脳血管障害であり、小児〜若年成人(20-40歳代)に好発します。

症状としては、盗血現象による頭痛、けいれん発作、進行する片麻痺が挙げられます。
盗血現象とは、通常毛細血管を通して酸素・栄養が脳実質内に提供されるのに対し、
AVMでは毛細血管が欠損しその機能がはたされなくなる事により虚血が起こる事です。

また、ナイダスの破綻で生じる脳出血症状として突然の頭痛、片麻痺、意識障害が挙げられます。

年間出血リスク

AVM患者の年間出血リスクは、 約2~4%とされています。
このリスクは、AVMが破裂していない場合の一般的な数値です。

一生涯の出血リスク

AVM患者の一生涯の出血リスクは、年齢が若いほど高くなります。
リスクはおおよそ 「100% - 年齢 × 年間リスク」で計算されます。
例えば、25歳の患者の場合、一生涯で 約40~50%の確率で出血する可能性があります。

初回出血後の再出血リスク

初めて出血した後の再出血リスクは、最初の出血後1年間で 約6~18%と急激に増加します。
特に、最初の出血後の6か月間は最も危険な時期とされています。

出血の重症度

  • 出血の致死率 : AVMが出血した場合、致死率は 約10~15%とされています。
  • 後遺症のリスク : 出血した患者の 約20~50%が重度の後遺症を残す可能性があります。
    出血の場所や規模によって、麻痺、言語障害、視覚障害などが生じることがあります。
  • リスクを増加させる要因

  • 深部AVM : 脳の深部に位置するAVM(基底核や脳幹など)は、表層にあるAVMに比べて出血リスクが高くなります。
  • 静脈の狭窄や血栓 : AVMに伴う静脈の狭窄や血流異常も、出血リスクを増加させる要因です。


  • これらのデータを基に、治療の必要性やリスクを患者に分かりやすく伝えることが重要です。
    出血リスクが高い場合は、積極的な治療を検討する理由になりますが、低リスクのケースでは慎重な経過観察を選ぶこともあります。

    1. 一般的なAVM出血リスクに関するデータ
    Al-Shahi Salman et al., "Spontaneous Intracerebral Hemorrhage from Arteriovenous Malformations," New England Journal of Medicine (2006)
    この研究では、AVMの年間出血リスクを2~4%とするデータが提示されており、AVMの長期的な出血リスクが評価されています。

    2. AVMの初回出血後の再出血リスク
    Brown et al., "The natural history of unruptured intracranial arteriovenous malformations," Journal of Neurosurgery (2000)
    この論文では、初回出血後の再出血リスクが6~18%に上昇することが報告されています。

    3. AVM出血の重症度および致死率
    Stapf et al., "Predictors of hemorrhage in patients with untreated brain arteriovenous malformation," Neurology (2006)
    こちらでは、AVMによる出血が発生した際の致死率(10~15%)や後遺症リスク(20~50%)に関するデータが記されています。

    4. 一生涯の出血リスクの推計式
    Ondra et al., "The natural history of symptomatic arteriovenous malformations of the brain: a 24-year follow-up assessment," Journal of Neurosurgery (1990)
    この古典的な研究は、年齢と年間出血リスクに基づいて一生涯の出血リスクを算出する方法を示しており、年齢が若い患者ほど生涯リスクが高いことを強調しています。




    AVMの診断方法
    画像診断 : 脳動静脈奇形の診断には、CTやMRI、血管造影検査などの画像診断が有効であることを説明

    治療方法には以下の方法があります。

    外科的手術 : 脳動静脈奇形を直接摘出する手術です。
    放射線治療(ガンマナイフなど): 放射線を用いてAVMを徐々に縮小させ、血流を減らしていく治療法です。
    血管内治療(塞栓術): AVMに流れ込む血管を塞いで出血を防ぐ治療です。



    実際の画像

    術前画像では動脈撮影で通常写らないナイダスや静脈が写っています。

    手術で正常血管を温存しナイダスとその周囲の血管のみを摘出することで術後は正常血管のみが描出されています。